主人公の高宮利一は、東京での過酷な仕事を辞め、
故郷の新潟で長距離深夜バスの運転士として働く中年の男。
ある夜、利一がいつもの東京発─新潟行のバスを発車させようとしたその時、滑り込むように乗車してきたのが、
十六年前に離婚した妻・美雪だった。突然の、思いがけない再会。
美雪は東京で新しい家庭を持ち、新潟に独り暮らしている病床の父親を見舞うところだった。
美雪の疲れ果てた様子が気になる利一。利一には、美雪との間に怜司と彩菜という子どもがいる。
利一が東京で定食屋を営む恋人・志穂との再婚を考えていた矢先、
長男の怜司は東京での仕事を辞めて帰ってくる。
娘の彩菜は、友人とルームシェアしながら、インターネットでマンガやグッズのウェブショップを立ち上げていたが、
実現しそうな夢と、結婚の間で揺れていた。
そして利一は、元妻の美雪が夫の浮気と身体の不調に悩み、幸せとはいえない結婚生活を送っていると知る。
利一と美雪の離婚で一度ばらばらになった家族が、今、それぞれの問題を抱えて、故郷「新潟」に集まってくる。
家族がもう一度前に進むために、どうすればいいのか──。
十六年という長い時を経て、やるせない現実と人生への不安が、
再び、利一と美雪の心を近づけていく。
利一とは違う場所で、美雪もまた、同じ分の歳月を生きていた。
だけど、どんなに惹かれ合っても、一度分かれてしまった道は、もう二度と交わらないこともわかっている。
この数ヶ月、志穂といた利一は美雪を思い、美雪といた利一は志穂を思った。
利一には恋人の志穂が、美雪には夫とまだ幼い息子がいる──。
奇跡のような再会から数ヶ月が過ぎ、小雪が舞う中を、
美雪は利一に見送られ、東京行きの深夜バスに乗る。
ひとりになった利一は、自分が今、人生のどこにいるのかと考える。
それは、暗い昼かもしれないし、夜かもしれない。
たとえ夜の中、先も見えない暗がりの中にいたとしても、利一はそんな夜をいくつも越えてきた。
だから恐れずに進めばいい。走り続けたその先にはいつだって、きれいな朝が待っているはずだ。
利一は願いをこめて、志穂の元へバスを走らせる。
もう一度、明日へと、自分自身の人生を前に進ませるために──。
この物語はすべてフィクションであり、登場人物、その他の名称、物語の設定は架空のもので、実在のものとは関係ありません。